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specimen box

未知なる独断と偏見を

「澁澤龍彦」 太陽にさえ黒点がある。

 ジャン・コクトーは「阿片*1」冒頭をジャン・デボルド*2に向けて

「太陽にさえ黒点がある。君の心にはそれがない。

 君は日ごとに僕に見せてくれる、 この世に悪が存在するのを見出す君の驚きのさまを」

・・・と始めた。

コクトーと言えばアンナ・ド・ノアイユやアルフォンス・ドーデ夫人のサロンでピカソジッド*3、サティ、ドビュッシーヴァレリーアポリネールなどと交流を深め、思索と技巧を錬磨したことが有名だ。

白書 阿片―或る解毒治療の日記 (角川文庫) 恐るべき子供たち (岩波文庫)

  かつて日本にも「文壇*4」と呼ばれる知的コミュニティーが存在したが、あくまで文人の佇まいを崩さず、むしろ俳諧や詩歌の世界との接触が強かった。まぁ、アクの強い言い方をすれば組合的な側面が大きいのだろう。

 

1970年代、澁澤龍彦らが提示したのは違う。

 フランス文学を研究し、積極的に紹介してきた澁澤が作り上げたのは徹底的に「表現活動」のサロンだった。寺山修司三島由紀夫唐十郎土方巽四谷シモン細江英公大野一雄美輪明宏大島渚横尾忠則山下洋輔*5など、時にアングラ、時にアヴァンギャルドと言われながら大きな潮流を作っていた。

田園に死す 状況劇場 劇中歌集 一柳慧作曲「オペラ横尾忠則を歌う」

 ただ、今日僕が言いたいのは澁澤龍彦の作品についてではない、その「筆跡*6」がたまらない。

四谷シモン氏のHPで公開されている。 澁澤龍彦から寄せられたオマージュ

サドやアンドロギュニュスについて、こんな女子高生の丸文字みたいに書かれたら―

 あぁ! やっぱり作品も少し語ろう*7、僕の大好きなものは以下の3点。

ブレストの乱暴者 (河出文庫)  高丘親王航海記 (文春文庫)  黄金時代 澁澤龍彦コレクション (河出文庫)

左:ブレストの乱暴者

数ある澁澤訳の中でも白眉。ジャン・ジュネ*8の世界観とも合致して素晴らしい。

中:高丘親王航海記

晩年の小説家としての才能が光る。膨大な西洋的象徴、物語理論を煮詰めて日本の風土に象嵌し、さらに自身の闘病経験*9さえも重ねるという出色の作品。

右:黄金時代

エッセイスト澁澤龍彦を確立したと言われている。多少の若書きが逆に魅力となっている。

 

 

・・・澁澤龍彦については、本当に多くの人が書いている。

マルキ・ド・サドについても、サド裁判についても、手帖シリーズについても、数々のエッセイについても書きたいことは山ほどある。好きな人はわかってもらえると思うが、澁澤龍彦は西洋世界の一つを紹介し、日本の一つのコミュニティーを形成した。それは巨大な惑星群である。その中心にはもちろん太陽があり、黒点がある。

澁澤龍彦の筆跡はコクトーのように詩的ではない、ただ、その墨の黒色からは驚きが産まれてきただけだ。

*1:コクトーの数ある著作の中でも、薬物の力を借りて作り上げた珠玉の出来。薬物ものとしてはクインシー「阿片中毒者の告白」、ボードレール「人口楽園」、バロウズ「ジャンキー」なども押さえたい

*2:小説家、同性愛者。「悲劇役者」「熱愛」など。コクトーとはアレな関係で、後のコクトーの衝撃作「白書」の遠因となる

*3:ジッドサルトルの「嘔吐」を読み、図書館内での男色表現にクレームを付けたが、これはやはり慧眼だと思う

*4:伊藤整の「日本文壇史」もいいが、野坂昭如の「文壇」でもいい

*5:現代の渋さ知らズタモリまでを俯瞰する日本のインプロ・東京の地下ジャズの系譜はまた別で書きたい

*6:少し前に河出書房から自筆原稿で印刷したものが出回ったような気がするが失念

*7:美輪明宏とのキスをせがんだ三島由紀夫のように、わがままを言っても良いじゃないか

*8:薔薇の奇跡、花のノートルダム、泥棒日記・・・ジュネはいい!ジュネはいいのだ!

*9:咽頭がん